日雇い派遣は社会悪か

dubrock2008-02-10


いわゆる「コイズミ改革」の一環として行なわれた規制緩和路線。
これにより可能になった製造業などへの1日契約での派遣労働。
日払い日当額のみを見るならば、時給800円で働くパート勤務よりも効率がよく、そして給料支払いのサイトも極端に短縮されている。
「これはオイシイ」とこぞって日雇い派遣労働に人員が流れたが、中身を良く見れば引かれているのは所得税源泉徴収くらい。
「一日単位での契約なので」という理由で、健康保険も、雇用保険も掛けられていない。

ただ実態を見れば、同じ現場に同じ人材が連日派遣されている、いわゆる「継続的な雇用関係」にある場合が多く、つまりは保険の適用対象となる場合が圧倒的に多い。
この雇用関係に社会保険を適用しなかった、また適用するように指導しなかったのは、社会保険庁の怠慢だろう。
3ヶ月程度の「短期雇用契約」を繰り返し結ぶコトで、社会保険の加入要件を満たしていないとする企業の小技を否定した時と同様である。
背景にあるのは、社会保険の保険料は労働者負担分を給与から源泉徴収し、それに会社負担分を足して「会社が社会保険庁に払い込む」という構造にあると思う。
つまり社会保険庁にとっては「会社」がお客さんであり、その「お客さん」の機嫌を損ねるような、例えば全体の社会保険料負担を押し上げるような指導であったり、比較的出入りの激しい区分の従業員に社会保険を適用させる事務負担の増加であったり、そのようなコトは「できればしたくない」というのが本音だっただろう。

同じコトは雇用保険にも言える。
実質的に「継続的な雇用関係」にあるのだから、当然雇用保険の対象になるべきである、そうすることによって、派遣先から一方的に打ち切られた仕事による一時的な失業状態というのは担保されるものだろうし、この制度の本来の意義はココにあると思う。
しかしそれでは、制度自体が破綻しかねない。
会社も保険料の負担金で収益が悪化する。
両者の利害が一致して、本来保護されるべき労働者が護られなくなった。

健康保険も、雇用保険も掛けなくていい。
そんな都合の良い労働者が安定的に供給されるのであれば、製造業その他にとって「これほどいいハナシ」はないワケで、間に入る派遣会社もマージン抜き放題。
働く側にしたって、「見かけの所得」は増えた上に支払いサイトも大幅に短縮されるのだから、みんながいいことずくめのハズだった。
トコロが、会社が人を雇う場合というのは健康保険に厚生年金の会社負担分、福利厚生費、もろもろ合わせれば実際に支給されている金額の倍近く掛かっているワケで、そのコトに気付かずに「見かけの手取り所得」だけで飛びついた労働者が「甘い」というコトになる。

「甘い」のだから搾取されて当たり前。
ろくな保障もなしに派遣会社に抜くだけ抜かれて、挙句に「データ装備料」なんて意味不明の控除まで許してしまう。
それも無知ゆえの当然の結果だろう。

たとえば健康保険と年金。
一般的に「厚生年金は高い」と言われている通り、掛け金の負担は所得にもよるが「国民年金」の負担月額より高額になる場合が多い。
また保険料は有無を言わさず給料から天引きされる。
時給1000円で150時間働いたので、今月は15万円貰えると思いきや、なんだかんだ引かれて手取りが13万円にも満たなかった。
だから会社の保険は損だ、という論法になるのだが、その「なんだかんだ」の内訳を理解している人は少ない。
「高い」と言われている厚生年金の保険料は、実は企業と折半になっているのである。
その企業負担分を加味すれば、すくなくとも時給は当初雇用契約を結んだ1000円よりは上の金額となるだろう。
会社が出してくれた保険料は一目瞭然、自分が給料から「厚生年金」として引かれた金額と同額だ。

それでも(厚生年金に)加入せずに国民年金としておく方がトクかどうかは、それぞれの判断による。
どうせ受給されると思えない国民年金など払わない。
払わないのだから「ゼロ」より安いものはない。
そんな論法も一部にはあるが、会社が半分出してくれるというのなら、そして国民年金よりもはるかに支給額も多いというのなら、入れてくれると言うものを断る理由はないだろう。

日雇い労働者から搾取して1兆円もの利益を上げたトヨタこそ諸悪の根源であり、折口は日雇い派遣の制度を作った、つまり格差社会を生み出したコイズミの手先。
そんな見方をする人は多いが、これは制度の活用を考えていない証拠だろう。
この日雇い派遣制度、うまく活用すればなかりの「美味しい目」がある。
もちろん、「従前の就労方法によって最低限の社会保障を得ていながら」という条件付きではあるが。

それをすべての労働者が実行してしまっては、企業もたまったものではないだろうが、そんな方法論のひとつを今年高校を卒業する働き盛りの若者にレクチャーしてきた。
マジメに働くだけが能ぢゃないのである。