2009年10月

dubrock2008-05-14


アネハ一人に罪を負わせる格好で幕引となった、建築物の強度計算書偽装事件ではあるが、その副産物として残されたのは必ずしも悪いものばかりではない。
その一つが「住宅瑕疵担保履行法」だろう。

「瑕疵(かし)」。
日常生活ではまずお目にかからない法律用語だ。
辞書には、「[意]きず。また、欠点。あやまち。」とある。
サラリーマン時代に、売買契約書のワープロ打ちをさせられて知ったコトバだ。
「甲は商品引き渡し後の商品の瑕疵について、その一切の責務を負わない」
といった使い方をする。
テメエで売った商品に責任を一切取らないとは、随分と都合の良いハナシなのだが、「瑕疵」なんて言われると分かったフリしてハンコついちゃうバカが、世の中には多いのである。

建売住宅や分譲マンションを購入後、10年以内に発覚した強度不足や手抜き工事について、その補修費を販売業者に請求出来るというもので、業者が倒産の場合には保険会社がこれを支払うことになるという。
ま、支払い能力はおろか実体すらもはや無いが倒産はしていなかったり、小手先だけの改修工事にしか応じず「1から建て直し」を求める購入者と激しく対立したりと、世間で「悪徳」と呼ばれる業者にこれでドコまで対抗出来るかは定かではない。
定かではないが、クライアントである「建築業者」とまるまる利害の一致する「確認検査会社」のする検査業務に比べれば、「保険金の支払い」という相対する利害関係人が関与するだけでも、「十分に画期的」と言って構わないだろう。

あの事件は、強度計算書を偽装したアネハよりも、偽装を承知で販売したオジマよりも、ザル確認で建築を認めたイーホームズ・フジタが一番悪いと、ワタシは今でも思っている。
しかし、その制度上の盲点から巨利を得るビジネスモデルを作り出した人物は他に居て、その巨額の利益も政治資金として還流する仕組みになっていたのだから、マスコミも含めて追求の声が立ち消えになったというのも、まあ「よくあるハナシ」ではある。

事件では、姉歯建築士の奥さんが自ら命を絶っている。
また事件の発覚直後に、施工した建築会社の社長も死んでいる。
後に姉歯建築士は、その病弱な奥さんの為に偽装を繰り返した、と供述しているが、売れない建築士がたまたま見つけた「シノギ」が一過性のものであるコトは十分に認識していただろうから、何故そのことを奥方に伝えていなかったのか、事件発覚と同時に何故家族で雲隠れしなかったのか、それが今でも心に引っ掛かっている。

それがどんなに壮大なババ抜きであっても、命まで落とすコトはなかったのに、と。

ともかく、来年の10月以降に「引き渡し」される住宅やマンションについては、この「住宅瑕疵担保履行法」が適用される。
「契約日」ではなく「引き渡し日」が基準になっているのがミソだ。
これにより、首都圏一帯、都心部よりも少し郊外に舞台を移した平成の「マンション建築バブル」は、節目を迎えることになるだろう。
もともと、都心部での価格高騰により販売も頭打ちになっているマンション業界。
「次の次」のマンション建築計画による融資で、「今」建てているマンションの建築資金を支払っているとも言われている。
その自動車操業が、破綻するXデー。
それが2009年10月ではないのだろうか。

2009年10月までに売ってしまいたいマンションデベロッパー。
「買い手」としてはどうだろうか。
想定される保険料は、1600万の1戸建てで8万円、20戸入居のマンション(総工費4億程度)で80万円程度になるという。
保険料をケチって、いや、保険会社の検査で再工事、なんてたまったもんじゃない。
来年夏のボーナス時期以降は、間違いなく「投げ売り」状態だろう。
そして成約すれば、どんな手段を使ってでも9月中に引き渡すに違いない。

10月の、制度適用を待つべきか、9月のバーゲン品で勝負するか。
大博打である。

いずれにしても、販売業者まで倒産して保険が適用されるようなケースというのは、おそらく後にも先にも「アネハ」が最後だろう。

「んな、支払われる見込みの無い保険てどうよ?」

なのだが、国土交通省から指定された保険法人「財団法人 住宅保証機構」あたりに、新しい政治資金還流の仕組みがあるらしい。
「保険」は、損保会社再保険
そんな「右から左」のビジネスモデルで、年間4、500億円の市場規模。
民間にも出来るコトをする、国土交通省がらみの財団法人。
「民営化推進担当大臣」が聞いて呆れる「天下り」の構図である。
それでも、零細の建築関係者の失業にとどまらず、「森ビル倒産」くらいになればザマアミロと、来年10月を楽しみにしてしまうのである。

保険による保証の上限は2000万円?
それが国が考える「適正な住宅価格」というコトか。

それじゃ都内にマンションなんて買えない?
耐用年数たかが50年の鉄筋コンクリート造に、多くを求め過ぎなんだと思う。

ともかく、この「住宅瑕疵担保履行法」が施行される2009年10月という日を、心に留めておこうと思う。