確信犯

犬の社会と同様に、対人関係においても暗黙の上下関係というのが自然に形成される。
その根拠は犬の社会でのそれと同じように、外観などのあまり根拠のない第一印象によって為される場合が多いように思う。

かくいうワタシも人並みの身長と実年齢以上に老けて見える風貌から、初対面の相手には下手に出るように努めているにも関わらず、意図せず「格上」の対人関係を形成することが多い。
反対に世の中には、背が低かったり太っていたり、メガネを掛けていたり目尻が下がっていたりと、実際の能力や性格、特性に関わらずあまり根拠のない外観によって意図せず「格下」の人間関係を形成してしまうヒトというのも存在する。

これが子供の頃ならそんな「格下」扱いに憤慨してケンカとなる場合もあるのだろうが、何十年もそういう初対面での対人関係がデフォルトで生きてくると、むしろそういう対人関係を逆手に取って世渡りをする「能力」みたいなものを身に付けてくる傾向がある様だ。
ここに仮にT君と呼ぶ彼が居て、彼は間違いなくそういう処世術を見につけた一人である。
地方出身の彼は見た目も冴えず、30をとうに過ぎても独り者。
職場では「ダメダメ社員」の典型的な扱いを受けている。

実は彼、任された仕事は手際よくこなせる技量があるのだが、普段はそういう一面を億尾にも出さずにのらりくらりと時間を潰しながら仕事をしている。
そんな彼が三味線を弾いているのを知っている(気付いている)のは直属の上司だけで、職場の同僚達は彼の「不器用ながらも一生懸命仕事している姿」が彼そのものであり、いつも上司から頭ごなしに叱られている彼が「かわいそう」というコトになっている。
上司ひとりが「悪者」なのだ。
その上司も中間管理職なので、さらに上司からは彼の教育不行き届きについては上司の責任として減点の憂き目に遭っている。

それでも彼は身を入れて仕事をする気なんてさらさらない。
すれば上司の仕事を肩代わりする自分が忙しくなって、その割に報酬と評価なんて上がらないコトを知っているからだ。
こういうのを「したたかな奴」というのだけれど、うかうかしていると彼らの策略にまんまと乗せられて、うまいことやられてしまうから注意が必要だ。

そういえば、最近後輩に「アッシー君(死語)」にされている気がするのだが、気のせいだろうか。
ちなみに、こういう輩を「確信犯」と呼ぶのは、厳密に言えば誤用らしい。