向こう三軒両隣

都市部において「近所付き合い」をしない世帯が増えているという。
このことが、都市部における犯罪率を押し上げているとか、犯罪への無関心が惨事を招くとか言われている。
緊密に連携した地域コミュニティが、犯罪を未然に防ぐんだと。

果たしてそうだろうか。
何十年と同じ場所に住み、生まれた子供の成長は近所の人も知っている。
その子供がまた子供を産み、近所の幼馴染と成長を共にし、「どこの子」という区別なく育てられる。
そういった中で自然に生まれてくる近所付き合いというのが、「向こう三軒両隣」ではないのだろうか。
引っ越してきたから手土産持参で挨拶に出向く。
それをきっかけにお互いが近所付き合いをして、なんて一朝一夕に築かれる類のものでは、あるはずがない。

都市部において、必要以上に近所付き合いをしないというか、あまり干渉しない距離感を保つというのが、新しいマナーではないのだろうか。
それに反して引っ越してきた新参者に擦り寄って来る者というのは、往々にして先方に用事がある場合が多い。
保険の勧誘であったり、物品の販売であったり、自営業を営んでいたり。
「向こう三軒両隣」の呪文にかかってそういった輩と親密にしてしまっては、彼らの商売の食い物にされてしまう。

人間が生活するということは、奇麗事だけでは済まされない。
騒音も悪臭も出るし生活習慣も違う。
ある程度の人口密度を超えた都市部では、ご近所さんに遠慮していたのではとても快適になんか住めない。
そんな都市部での処世術としての、お隣との距離感。
そういうものをちょっと言ってみたくなった。

誰だって、憧れの六本木ヒルズに入居して、お隣さんが「醤油貸して」なんて尋ねてきたら、オカシイと思うだろ?

向こう三軒両隣り
1,600円 / 田中 敏溥著