無戸籍男

生後出生届を出してもらえず、なんと20年に渡って「無戸籍」状態だった男のハナシが話題になっている。
誕生時借金があり、出生届を出すことで住まいがバレるのを恐れてのことと言う。
離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子とされる民法の規定により、無戸籍となってしまっている子供のハナシとはちと違う様だ。義務教育の期間中であれば「義務教育を受けさせる義務」、また出生を届けないことにより生じる様々な不利益を子供に負わせた行為は「虐待」とも見なせるらしいが、この行為そのものを罰する法律は特段ないという。

借金の取り立てから逃れる為に夜逃げをする。
その事自体はそんなに珍しいハナシではないのだけれど、「子がいれば大丈夫」というのが追っかける側にはある。
つまり、子を就学させなければならない都合上住民票の移動を行わなければならず、その履歴により容易に転居先はつかめるというのだ。

もともと転居した場合には、速やかに市町村に届け出なければならない。
それはそうなのだが、住民票により逃れたはずの追っ手に捕まってしまうのであれば、シレっとしておくのが一般
的だ。
もちろん転居先で定職に就いて、支払われる給与から源泉徴収された住民税が転居先の市町村にも入る仕組みになっているので、当該市町村はソコにそのヒトが住んでいることは把握している。
キチンとしなければ前の市町村しか受け取るコトの出来ない市町村民税なので、転居先の市町村では届け出をするよう要請が来るし、遅れて行けば「(届け出の遅延は)本来処罰される行為だ」などと脅かされることになる。
でもせっかく夜逃げしたのだから、やむを得ず届けなければならなくなるまではシレっとしておきたい、ソレが人情だと思う。

先日個人情報の保護の為、住民票の取得時には身分証明書の確認を確実に行うよう通達が出たらしいが、内容は本人または親族以外の第三者が取得する場合には「貸金訴訟の為の所在確認の場合」を除き交付しない、という主旨になっている。
これまでも親族でない第三者が住民票を取得する場合には、行政書士などがその資格と取得の目的を提示しなければなかなか交付されなかったが、「兄」とか「甥」とか名乗って取得できたのも事実。
それが身分証の確認により難しくなったからとて、
貸金訴訟の為なら取得できることに変わりはない。

住民基本台帳だ国民総番号制だと騒がれたが、そも「住民票」という制度は何のためにあるのだろうか。
年金、健康保険に税金の徴収なら所得税と一緒にして税務署にまとめてしまうのが合理的。
地方自治体が自らの仕事の為にそういう制度を作っているというコトになっているのだろうが、その転出入の履歴により夜逃げ先がバレてしまうという不都合から、隅田川沿いに段ボールを敷いて住むコトとなったヒトは少なくないハズだ。
転居届を出さないコトによる不利益は公的な補助を含めかなり大きい。
それでも出せない、出したくない事情が出す側にある。

実質的にはカネ貸しの為の制度運営になっている部分が大きい「住民票」。
政府の圧力により利上げを見送ったとされる日銀と、グレーゾーン金利廃止に際して特段の配慮を図った政府。
結局カネ持ってるヤツが一番偉いってのが、資本主義の原則なんだなぁ。

黄昏転居記
1,300円 / 木下 順一著