上がれる時に、上がっとけ

麻雀というゲームは、4人のプレイヤーが順番に親を2回づつ、通常8ゲーム(局)で1セット(ハンチャン)とし、その間に取り合った点数棒の多い人が勝ちとなる。
ゲームは13枚の自分の手牌の図柄を揃えれば「上がり」となり、その「上がり」の完成形の難易度によって、他のプレイヤーからもらえる点数が変わってくる。
難易度の高い「上がり」は高得点となり、容易に完成形となる「上がり」ではほとんどゲームには影響しない点数しか得られない。
アカの他人でやるよりは、顔見知り以上の親しい関係にある4人でプレーする場合が多いので、得点の高低を問わず「上がり」を狙うというよりは、多少難易度の高い「上がり」を、たとえ上がれる可能性が低くても狙うというのが「お約束」の空気となる場合が多い。

4人で8ゲームを競うのであるから、単純に考えれば1セットで2回は、自分が上がれる順番が回ってくる計算になる。
ただ、「ツキ7、腕3」と言われるくらい、ゲームの最初に配られる13枚の手牌が「上がり」を左右するので、ツイていれば1セットに4回も5回も上がれる場合もあるし、逆にツキが無ければ1セット8ゲームで1回も上がれない場合もある。
(これを通称「ヤキトリ」と呼んで、ペナルティにするローカルルールもある。)

慣れてくれば1セット30〜40分程度。
なので「テツマン」と呼ばれる夜を徹して行われるゲームというのは、10セットも15セットもゲームを繰り返していることになる。
親しい関係の4人なので、「勝ち逃げ」というのが許されない空気感もあり、勝っているプレイヤーからゲームの終了を提案する場合は殆ど無く、負けているプレイヤーが「止めよう」と言うまで付き合うのも、暗黙のルールとなっている場合が多い。
(なので負けず嫌いのプレイヤーが負けると徹夜になる場合が多く、この場合勝っているプレイヤーは付き合わざるを得ないのだが、この辺がプレーしない奥方には理解されず、毎度肩身の狭い思いをしているお父さんは少なくないハズだ。)

ならまた次回すればいいぢゃん。
なのだが、先の「ツキ」の問題があり、後日の仕切りなおしでは「あのゲームの続き」が見られないというのが、プレイヤーの言い分でもある。
ゲーム開始当初は「ツキ」というものもあまり出ず、4人がイコールの条件で上がりを狙っていく。
ところがある段階で、何かをきっかけにある1人のプレイヤーに「上がり」が集中するようになる。
これが「ツキ」だ。
ココからは3分の「腕」の見せ所で、いかにツイている時間を長く保ち、いかに高得点を稼ぐかがツイてるプレイヤーの使命になり、対する3人はこの「ツキ」をいかに落とすかを考える。
なのでゲームの勝敗は、「ツキ」を持続させ続けて他のプレイヤーからギブアップを取るか、「ツキ」を掴むことが出来ずに一人負けしているプレイヤーがギブアップするか、まで続けられる。
だから朝までかかる場合もあるし、「続きはまた今度」ではダメなのである。

この「ツキ」を掴む要因になるのが「上がり」であって、1セットに2回来る「自分が上がる順番」をキチンと見極めて、手堅く「上がり」を拾うことが、「ツキ」を呼び込む方策となる。
ここで、ゲーム開始序盤で、どうしようもないくらい容易な完成形の「上がり」が迷い込んだら、どうするか。
序盤から点数の低い「上がり」では、ゲームとしては消化試合みたいになる。
空気的には、多少「上がり」を遅らせてでも、もう少し難易度の高い「上がり」を狙わなければならない。
と、「上がり」を見送った瞬間に、他のプレイヤーに「上がり」を奪われる。
それ以降、そのプレイヤーが「ツキ」始める。
よくあるハナシなのだ。

ソコから、ギャンブラーが口にする鉄則が生まれる。
「上がれる時に、上がっとけ。」
低い点数の上がりで多少「場」の空気を壊したとしても、上がらなければならない時があるのである。

人生にも、そんなタイミングがあるように思う。
商売でも、異性とのお付き合いでも。
「上がれる時に、上がっとけ」、だ。