600億円

dubrock2007-10-01


国内で営業する生命保険会社の不払い保険料の総額が、600億円を超える見通しらしい。
今回大幅に不払い総額を押し上げたのは、病気やけがで重い障害が残った場合に支払われる「高度障害保険」と、一時盛んに勧誘が行われた「三大疾病特約」。
いずれも本人が死んでから支払われる死亡保険金に比べて、本人が生きていて、なおかつ生きる為に使われるお金だけに、不払いの保険会社の罪は重い。

「お付き合い」で、「知っている人だから」と自らが加入している保険の詳しい内容を知らない契約者にも問題はある。
標準的な共働き世帯であれば、終身保険に1万5千から2万、個人年金にもほぼ同額の、締めて3万から4万もの大金を支払っておいて、「そういうのは苦手」は無いだろう。

それらを「貯金のようなもの」と位置付けている人も多いが、そういうコトを言うヒトの契約に限って、7割方は掛け捨てられているから驚く。
終身保険」と謳って募集をしておきながら、保険金の大半は掛け捨ての定期部分に充当。
「保険」は大切なもので、いずれどこかの保険には入らなくてはならないから、どうせ入るなら知り合いのアナタから。
そんな契約者の心理を踏みにじるような背信行為だ。

こういう設計の保険を勧誘に来るセールスレディ、要は「保険のオバチャン」と過去に何度か膝を詰めてお話しをしたコトがあるが、その保険が
?必要な補償額を大きく超える定期保険を付加されていて、
?その為保険料に占める定期保険部分の割合が異様に大きくなり、
?結果として金融商品としての本来の姿を逸脱して、契約者に著しい不利益を被らせているか、
についての認識と見解を確認できた試しはない。
まず大抵のレディさんは、?の時点でこちらの意見を遮り、猛反論してくる。
独身の25歳、収入の安定した結婚の予定すらない男ヤモメが、死亡保険金に2千万円も必要な理由について、そしてその内訳が、終身500万に定期特約1500万である理由について、「アナタとは保険に対する考え方が違う」と押し切られてはこちらも納得出来ない。

このハナシ、?を認めてしまうと必然的に?、?とハナシは進み、結果的には保険契約高、ひいては保険料が下がるハナシとなるのだが、そういうハナシまで分かっていて、このレディさんは?の段階での反論に終始しているのだろうか。
駆け出しのレディさんならともかく、永いキャリアを持つベテランのレディ様なら、ソコに何か意図的なものを感じる。
ここで言いたいのは、

契約する側が「知り合いのよしみ」で契約する気なのだから、契約を取る側もいくら会社から「こういう契約を取れ」と言われていたとしても、もう少し契約者の立場に立った契約を勧めるべきではないか、

というコト。
分からないというのであれば、もっと勉強するべきだ。
それでメシを食うのだから、当たり前のハナシだろう。
そして「分かっていてやっている」というのであれば、それでいいのかどうかを自分の胸に手を当てて考えてみて欲しいものである。

ところでこのニュースの最後は、
「保険料の滞納で契約が失効した場合に返される『失効返戻金』が未返金になっているケースを不払いに含めるかどうかは、各社の判断が分かれている。」
と結ばれている。
本来であれば引き落としの口座に振り込めば済むハナシなのだが、わざわざ付記されているのは何故だろう。
先日、保険の外交員で地域の「支部長」まで務める人が、めでたく自己破産した。
自己破産の名目上の理由は消費者金融への多重債務なのだが、そんな「支部長さん」まで務める人が生活苦とはにわかに信じ難い。
しかし内情を聞くと架空に結んだ保険契約の保険料支払いに、家計は火の車だったらしい。

時はちょうど上半期決算真っ盛りだが、9月30日の午後8時に目標の契約件数まであと1件。
この契約さえ取れれば、支店で表彰されて金一封、さらに出世も間違いなし、となれば、友人に電話して「毎月の保険料はこちら払うから(保険の契約をしてくれ)」という選択肢だって、選ばなければならない時がある。
頼まれた方もバカぢゃないから、他に出入りのない休眠口座なんかを提供する。
ソコに毎月保険料を振り込み続けて、そんな口座が一つ増え、二つ増えして…ついにパンクした場合、些少なりとも契約者名義の口座に振り込まれる自分のカネを、彼女は果たして黙って見ていられるだろうか。
その契約の担当者である彼女は、「保険契約者と連絡が付かない」と報告して、ほとぼりが冷めた頃いかに自分のものにするかを考えるのが自然だ。

「背負う(しょう)」と言われるこの行為。
「『失効返戻金』が未返金になっているケースを不払いに含めるかどうかは、各社の判断が分かれている。」
という記述はその行為を暗示しているように思えて、生命保険業界が抱える最大の暗部はまさにソコなのだと、ふとこれまでに会った保険関係者の「今」を思った。
そんなニュースだった。

「駅前の一等地に豪華なビルを構えているのは、有事の際の保険金支払いに充てる為」
と言うのであれば、今すぐ売り払ってでも未払い問題など解決しろ。
それが、このゲームの胴元となる最低限のルールであり、「それが、大人のマナー」だと思うのだが、どうだろうか。