スズキのザリ

dubrock2008-06-18


「旧車とか興味あってぇ、今はザリとかチョー欲しいんすよ」
若いヤツらのハナシに合わせて「ウンウン」と相槌を打ってはいたが、「ザリ」って何?

団塊ジュニアのオイラにとって「旧車」と言えば「ヨンフォア」に「フェックス」。
それも中学時代に高校生の先輩達が乗っているのを、羨望の眼差しで眺めていたのを思い出す。
でも「ザリ」は聞いたコトがない。
聞き違いだろうか。
でも、「ザリ」でなければ、彼は何が欲しいと言ったのだろうか。

「これですよ」
ようやく手に入れた「ザリ」を誇らしげに見せられて、その疑問はようやく解決した。
初期型スズキGSX250E、通称「ザリ」。
よく言われる「タンクがアメリカザリガニに似ているから」は間違いで、「その鮮やかな赤色がザリガニを連想させるから」というのが正解と言われているが、そんなのは正直どうだっていい。
「カッコイイ」からは程遠いそのスタイリング。
当時から「性能はともかくスタイルが・・・」と言われたスズキのバイクである。

なんでこんなものが・・・

それが正直な感想である。

CB以来「日本のお家芸」となった空冷インラインフォア(直列4気筒)。
これを直管にして高回転で空ぶかしした時の排気音は、「ファンファン」というか「フォンフォン」というか、騒音でありながら人間を興奮させるものであり、その「音」が聞きたくてレース場に赴くマニアも少なくはないだろう。
ホンダのひときわカン高いオト、ヤマハは角笛のような独特の響きがあり、カワサキには味がある。
ま、夜の繁華街でこのオトを出すのは「他人様に迷惑をかける」という意味で社会を逸脱しており、到底容認させる行為ではないのは承知の上でハナシを続ける。

『疾風伝説 特攻の拓』(かぜでんせつ ぶっこみのたく)はそんな「ボーソーゾク」を題材にしたマンガであって、主人公の「拓ちゃん」こそ今風のゼファーだが、その他の登場人物は様々な「懐かしの名車」で登場するのがお約束となっている。
なのだが、「ヨンフォア」に「バブ」はともかく、「ケッチ」(カワサキの2ストKHシリーズ)の「ボーソーゾク」って、見た記憶がない。
というか、アレ(2サイクルエンジン)で空ぶかししても「感じるオト」は出ないと思うのだが・・・

それに、最近では「バブ」と呼ばれて名車の仲間入りを果たしたホンダのHAWK(ホーク)シリーズだって、当時は「タンクがヤカンみたい」とか散々言われてたし、そもそも「バブ」の由来になった「マフラー替えると『バブバブ』言う」というのも、本来は「良いオトが出ない」という意味(つまり貶している)だったと記憶している。
そもそも、パラツイン(並列2気筒)エンジンを直管にしたトコロでインラインフォアのような独特の共鳴音は無く、「それしかないから(仕方なく)そうしていた」というのを、最近のヒトは理解しているのであろうか。

そこで、「ザリ」である。
パラツインである。
間違っても「イイ音」はしない上に、あの鮮やかな赤色のライン。
あぁ、あのザリガニみてぇなバイクw」
というフレーズにも、そういった嘲笑が込められていたのではないだろうか。
決して、「オレのザリ」とオーナー自身が誇らしげに言う類いのフレーズではないような気がするのだが。

だいたい、技術の進化にともなってオートバイのエンジンも高性能化している。
なのに「ボーソーゾク」の連中というのは、なぜか80年代前半のバイクばかり好む。
「なぜ、最新のバイクを使わないのか」について、むかしその「ボーソーゾク」だった後輩に聞いたコトがある。

ローテクのエンジンの方がイイ音がする

これが建前の方の第一の理由である。
最新のエンジンはカムチェーンなどもしっかりしていて、高回転までよどみがない。
それはそれでイイことなんだろうけども、「空ぶかしして音を愉しむ」ならば、多少バラついて、時にミスファイアするくらいの方が面白いのだという。
これはなんとなく理解できる理由であって、永年乗り継いできたホンダのエンジンは高回転までよどみなく回り乗り易いのだが、モーターの様で乗っていて「面白み」に掛ける。
なのでむかしは見向きもしなかった、基本設計が70年代のエンジンを搭載したカワサキのゼファーなどが、たとえ炎天下の待ち乗りではオーバーヒートしてしまうとしても、最近は「私的欲しいバイク」の上位になっているのである。

対して本音の方の理由、
ヤバくなっても、なんとかなる。」

これは「ボーソーゾク」という違法行為が前提でのご発言になるのだが、幹線道路を時速数キロというノロノロ運転で、しかも高回転の空ぶかしを繰り返すとなると、エンジンの排熱的にもかなり厳しくなるという。
つまり、あまりチョーシに乗りすぎると「オーバーヒート」という憂き目が待っていて、その場合「なんとなく予兆の現れる旧車」に対して「最新型は突然止まる」というのだ。
また、「そうなっても多少は走れる旧車」に対して、「すぐにはエンジンが掛からず、最悪エンジンブロー」という最新型は、つまり「ボーソーゾク」にとっては「検挙」を意味する。
「あってはならないこと」が起こるのが「最新型」というコトなのだ。
(まあその他に、「(旧型車のほうが)盗みやすい」とかいう不謹慎な理由もあるらしいが。)

とはいえ、ろくにオイル交換もしないで一晩中空ぶかしすればエンジンももたない。
人気車であるヨンフォアやフェックスなどはことごとくエンジンを潰されて、残っているコンディションの良い車両は100万円以上の値がつくこともある。
少年が「憧れ」と「興味」だけで手を出すには、あまりに高嶺の花なのだ。

ハンドルが今風にアップされ、直管マフラーが装備されただけの、フロントに粗末なディスクブレーキ、リアはドラム、それに頼りないくらい細いヒビ割れたタイヤを履いた「ザリ」。
そんな「買ったばっかでソッコーブッ壊れた」ローテクの塊を眺めていて、そんな若者の台所事情を考えていた。

農家の納屋でホコリまみれのポンコツ引き取って、キレイに磨けばボロ儲け。
商売としては悪くないが、問題は「カネの無い若者(ゴロツキ)相手の商売」で、どうやってカネを回収するかというコトだ。
やっぱり、「パパンのハンコ貰って来い」だろうなぁ。w