ストックオプション所得

dubrock2008-09-29


日本HPの元副社長と、アドビシステムズの元社長が脱税で挙げられた。
手口は2人とも同様に「ストックオプションによる所得を申告しなかった」というコトらしい。

ま、それだけなら「ついうっかり」で済むのかも知れないが、2人ともストックオプションによる株式の取得から売却、それに資産の保有までを全て米国で行っていたというから、「知っててやった」というコトになる。
隠した所得金額は2億ほど。
摘発のきっかけはアドビの石井元社長の申告額が「不自然に少なかったこと」というからなんともお粗末なハナシだ。

やるなら徹底的に、「毒食わば皿まで」である。

ちなみに「ストックオプション」というのは、「あらかじめ定められた価格で、会社から株式の交付を受けられる権利のこと」とされ、今回挙げられた両氏が所属した外資、と言っても主にアメリカの企業が、ボーナス替わりによくやる手法だ。
勤め先の企業の株式が公開されていて、いま市場で300円だったとする。
この時会社は、新しく迎える社長に330円での株式の交付を約束する。
「オプション」だ。

疎いヒトなら「そんなものイラネエ」と言ってしまうトコロだが、彼ら「勝ち組リーマン」はそうは言わない。
言わずに、自社の株価を上げるコトだけに邁進する。
業績の向上だったり、新製品の発表だったり、新たな業務提携だったり。

そして市場での株価が、約束した価格を上回った段階で、その「オプション」を行使するのである。
市場価格が350円なら20円、380円なら50円が「儲け」になる。
もちろん、ストックオプションが「1株」というコトは無いので、1万株なら1万倍、100万株なら100万倍の利益が、転がり込むコトとなる。

この場合、会社は「自社の株式」という、まあ約束手形みたいなものを出しているだけで、キャッシュを交付するワケではない。
弊害として発行済株式の総数が増え、つまり「1株当たりの株主価値」が薄まる不利益が生じるが、その段階での株価が上がっていれば文句を言う株主も居ないだろう。
つまり「経営陣へのストックオプションの付与」は、会社にとっても経営者にとっても、お互いに「Win-Win」の関係になるのだ。

弊害があるのは国税当局。
株価が幾らの段階でオプションを行使するかは当人次第なので、つまり「幾ら儲けたか」も当人次第というコトになる。
つまり「所得が掴みにくい」というコト。
そいつも些少なら一時所得だろうが少額所得だろうがどうでも良かったのだが、「軒並み億単位」ともなれば見過ごせまい。
まったくメンドクサイ概念を持ち込まれたものなのである。

それも上場会社ならまだ分かりやすいハナシ。
これが買収された非上場企業の株式であって、海外の、それも市場外で取引されたとなれば、それは大変な調査になるだろう。
考えただけでも恐ろしい。

とはいえ、脱税額で1億2億のみみっちいハナシ。
本場アメリカの、スケールのでっかいハナシをしよう。

先日破綻した、リーマン・ブラザーズのCEO・ファルド氏の、昨年所得約36億円において、通常の給与に当たる部分は8000万円ほど。
あとの35億以上は、「ストックオプション」による収入である。
最期は2ドル3ドルの「クズ株」となったリーマンブラザーズの株式で、去年は35億円の売却益。
アメリカ経済がいかにバブルだったかというハナシである。

彼らが投機を繰り返したのがいわゆる「サブプライム」。
サブプライム」「サブプライム」言うけど、正しくは「サブプライム者向け住宅ローン」とその派生商品であって、「サブプライム」とは「『プライム』でないヒト」のこと。
つまり、通常ではお金を借りられないような低所得者向けに、金利を少し高くした住宅ローンが「サブプライム者向け住宅ローン」である。

ただでさえ借入期間が長く、利息の支払いが重い住宅ローン。
その金利が高めに設定されているのだから、ローンの返済もさぞ辛かろう。
なのだが、低所得の彼らはこぞって借りた。
もちろん、真面目に返済する気なんてサラサラ無くて、もっぱら転売目的。
それで利益が出て、それが「当たり前」だったのだから、アメリカ人も陽気な人達である。

これに、州により多少の違いはあるが、「担保に入れた住宅を手放せば、それ以上の債務を負わない」というこれまた陽気な法律が後押しする。
結果、たいした価値もない住宅ばかりが、銀行へ戻って来た。
そんな銀行へ投機していたのがリーマンやゴールドマンサックスであり、その投機行為によって去年は「過去最高益」。
今年は破綻して公的資金。w
なんでもバカらしいハナシである。

そんなワケで、「もらいすぎ」のアメリカ金融トップについて、今後報酬の制限がされるというが、同じように90年代公的資金がバシバシ投入され、見せしめに報酬ダウンされた日本の金融トップは、目下報酬復元中という。
やっぱり「銭が銭を呼ぶ世界」の住人は、悪知恵も超一流のようである。

規制でもなんでも構わないが、「ストックオプション」って考え方自体は悪くない。
そんなコトを思った、チンケな脱税のハナシだった。