ロス疑惑再び

dubrock2008-10-12


三浦和義という男性の話。
ロス疑惑」、「疑惑の銃弾」と騒がれて、この男性がメディアに盛んに露出していたのは1985年頃のこと。
もう30年も前のことになる。
30年も前のことであるから、当然ワタシは鼻水を垂らしたガキであって、何が「ロス疑惑」なのか、テレビは何をそんなに騒いでいるのか、その何たるかがさっぱり分からなかった。

ハナシを要約すると、1981年に渡航先のロサンゼルスで奥さんが銃撃され、死亡した。
この事件が、「保険金詐欺なんぢゃね?」という報道が「ロス疑惑」であり、最初に報道した文春の記事タイトルが「疑惑の銃弾」というコトになるらしい。
なんでも「三浦和義」という男性がタレント事務所の所属でもあって、子役として活動していた時期もあったというコト、カメラを向けられると殊更雄弁に語り、それがマスコミの晒し報道にうってつけだったというコトが、事件をココまで有名にした所以であると思われる。

その後日本で逮捕され、関連事件であるいわゆる「殴打事件」では有罪となったが、本題の「ロス疑惑」では無罪となった。
そのあたりまでは微かに記憶がある。
久しぶりに名前を聞いたのが2007年の万引事件。
故人には失礼だが、往年の「あの胡散臭い風体」で棚から商品を盗む防犯カメラ映像が全国中継され、一躍世間の注目を集めた。
1985年当時、妻の死亡保険金として1億5千万もの大金を手に入れ、「現在は会社を経営」と名乗っているにはあまりに惨めで、そして落ちぶれた様子。
これが格好のエサとなって、この小額の窃盗事件は何度も報じられ、図らずも三浦氏自身のメディア露出が繰り返された。

これに味を占めたのだろうか、翌年である今年2月に、あろうことかアメリ自治領であるサイパン島渡航
例の「ロス疑惑」の容疑であえなく逮捕され、一事不再理だ何だと散々揉めたが、先日結局アメリカ・ロサンゼルスへ移送。
ソコで「共謀罪」なんてので審理されるという矢先に、獄中で自殺してしまったというのだ。
この、「拘留中に自殺」という一報には、しこたま驚いた。
あれだけなんだかんだと理屈を並べて徹底抗戦の構えだった氏が、事件にあっさり「自殺」という幕引きをしてしまったのである。

事件後、サイパン島アメリカの自治領であって、身柄を拘束される可能性があるというのを承知かどうかは知らないが、少なくとも「アメリカ本国」への入国は避けていたという氏。
ストレートに考えれば、アメリカの、しかも事件のあったロサンゼルスまで連れてこられたというコトは、即ち「一巻の終わり」であって「ゲーム・セット」。
もう腹を括るしかないという発作的で短絡的な行動に思われる。
ところがどうして、その「死」の波紋はあまりに大きく、「身柄を拘束した当局の対応」のみならず、「日本で一度審理を行なった事件を蒸し返し、わざわざ身柄を移送した件」と「そうするまでの証拠とは一体何だったのか」まで疑問が及ぶのである。
それがどれくらい大きいかというと、こんな縁も所縁もない野良犬のブログで、わざわざ記事として取り上げられるほどなのである。
むかし奥さんの不審な死で大金を手に入れた「怪しいヒト」は、今やすっかり「被害者」になったのである。

これほどまでに計算されて、かつ最大の効果を齎す「死」というものも、近年珍しいのではないだろうか。

コトの発端は保険金詐欺の嫌疑。
その真相は分からないが、状況的に不自然な部分が多く、有罪を確信する捜査担当者が居て、結果多額の保険金を本人は受け取っている。
その、三十数年前の1億5千万で、逮捕もされ、裁判裁判の日々。
その裁判経験から複数の著作もあるらしいが、結局最後の最期まで、その「疑い」に付き纏われたものだった。
もし仮に、疑われている通りの保険金詐欺を企てていたとして、果たしてその計画は成功だったのだろうか。

三十数年前当時に1億あれば、まあ何がしかの「事業」的なことは興せるだろう。
逆に何もしなくても、まあ数年は面白おかしく暮らすことも出来る。
でもそんな生活を見ていて、「三浦和義は怪しい」と言われてしまった。
そして、あろうことか週刊誌の記事になってしまった。
もうこの時点で、計画の8割方は「失敗」であろう。
実際長期に渡り収監もされている。
メディア露出で知名度を上げ、著作を出版するのは二次的なもの、当初想定していない状況からの「苦肉の策」と考えていい。

そして60を過ぎた今になって、改めて手錠に腰紐。
30年前の話を蒸し返され、挙句ロスへ移送。
法律に基づいたものかはともかく、社会的な「制裁」というものは十二分に受けたとは言えないだろうか。
それでも、「罪を償っていない」と言われる。
担当捜査官の、私怨とも取れる執拗な追求に晒される。
少なくとも、これで成功とはとても言えない。
誰が見たって「失敗」である。

そんなワケで、コトの真偽はともかくとして、日本国籍を有する男性が、アメリ自治領で身柄を拘束され、本国に移送されて、そして獄死してしまった。
第一日本では、とうに「無罪」とした事件である。
国として黙っているワケにはいかないだろう。

何とも影響力のある死に方をした。

そういう意味で、この三浦和義という男性のセルフプロデュース力を、感じずには居られないのである。
もしかしたら、この人も「自分を客観的に見る」ことが出来たのかもしれない。
色々と考えさせられる、一連の騒動だった。
でも、周囲の警告を無視して、何で今さらアメリ自治領であるサイパン島に行ったのだろうか。
もしかしたらそれが、還暦を迎えた彼の「贖罪」だったのだろうか。