有頂天ホテル

dubrock2008-10-23


JR品川駅前の老舗ホテル「京品ホテル」の廃業にまつわるハナシ。
世間ではこれを、さも「リーマンショックの煽り」と伝えているが、ちょっと違うのではないだろうか。

聞けばこのホテルの廃業が従業員側に伝えられたのは、今年の5月。
アメリカがまだ空前の好景気だと浮かれていた頃のコトだ。

当時複数の相手先に60億ほどあった会社の負債を、一手に引き受けたのがリーマン系の投資ファンド
さすれば彼らの興味というのは、品川の一等地に立つこのホテルを、単純に売っ払ったら幾らかというコトであって、「アットホームな雰囲気が好まれていた」という暖簾でも、「昨年は営業利益ベースで一億弱が計上された」コトでもない。

アメリカにつられて、「都心部限定」とはいえ、再開発ラッシュによるミニバブルに湧いていた頃のコト。
アフォな米系投資ファンドが、これまた値上がり目当てに(仮に)100億ほどで買ってくれれば、投資効率は160パーセントオーバー。
利益40億の、僅か5パーセントほどがオーナー側に還元されても、ファンドとしては「痛くも痒くもない」だろうし、オーナー側も、それで返済の目処が立たない膨大な借入金がチャラになり、かつ退職金みたいなものまで得られるとすれば、悪いハナシではないだろう。
それが彼らのビジネスモデルなのだ。

会社は廃業を伝えた今年5月以降、退職金を上乗せし、再就職先の斡旋もしてきた。
降って涌いたような「突然の解雇」ではないのである。

確かに、ある程度年齢の行った再就職というのには、何かと問題がある。
年収も大きく下がるし、必ずしも同じステータスが維持出来るとは限らない。
異業種への転職でも、「就職出来ただけマシ」な時代である。
前職が「料理長」であっても、新しい職場では「新入り」である。
嫌な気持ちは分かる。
とはいえ、解雇された職場を占拠し、訴訟まで辞さないとは、やっぱり「やり過ぎ」ではないだろうか。

状況を理解し、とっとと次の職場を見つけて去る。
それは、「そういうコトが出来るヒト」だけの特権かもしれない。
あまりに柔順な「羊」の対応かもしれない。
それが出来ないからこそしがみつく、出来ないからこそガタガタ騒ぐ。
それも一つの方法かもしれないが、見ていてあんまり気持ちの良いもんではない。

「従業員が職場に愛着を持つ」
それも、経営者として嬉しいコトではあるけれども、孫の代まで続く累積債務に、提示された好条件。

それを選択するかどうかは「経営者の判断」であって、従業員に意見を言うコトは出来ても、決裁権はない。
もし、そういうコトをしたいのであれば、ファンド側が納得するぐらいのカネを集めて、ホテルを買い取るしかない。
それが、「資本主義」ってもんじゃないだろうか。

そんなワケで、マスコミがどんなに騒ごうとも、決して「公的資金で救済」なんてすべきではない駅前再開発のハナシ。
アットホームでリーズナブルなホテルが失われるのは、それはそれで勿体ないコトではあるけれども、リーマン本体が破綻しようとしまいと、アメリカ経済が失速しようとしまいと売却される運命だったホテルのハナシ。
それを「リーマンショックの庶民への波紋」とするのは、ちと焦点がズレているのではないだろうか。

そんなコトを思った、「いいオッサンが檄昂するハナシ」だった。