田母神(たもがみ)論文

dubrock2008-11-02


あってはならないものが世に出てしまった。
現職の航空幕僚長、つまり航空自衛隊の制服組のトップによる、政治的な主張。
それも、近年の謝罪外交に真っ向から反論する内容。
シビリアンコントロール」という、サヨクでなくても知っている大原則。
それを根本から覆す論文が出たというのは、これはシロウトでも分かる「ヤバいコト」である。
これが口頭での発言であれば、「あれはそういう意味ではない」「そういう意図で言ったものではない」と如何様にも変えられようもの、紙に書いてしまっては致命傷だ。
案の定、問題が広がる前に田母神航空幕僚長は更迭、早々に韓国にも釈明と謝罪を済ませる念の入れ様だった。

「ナニもソコまでしなくても」

とも思うのだが、12月には日中韓首脳会談も予定されているというコトで、「その前にチョソコを黙らせておかなければ」というのは自然な対応と言えるだろう。
では何故、田母神航空幕僚長は、ようやく登りつめたポストを自ら追われるようなコトをしたのだろうか。
それも、安倍シンゾーとの黒い関係が取り沙汰された「あのアパグループ」(つまり民間)主催の懸賞論文。
最優秀賞を受賞して賞金300万円也をゲットしたというが、ナニもしないで円満退官し、シレっと関係団体に天下った方が、よっぽどカネになったハズである。

それをなぜ、わざわざ今のタイミングで?

田母神航空幕僚長は、その歯に衣着せぬ物言いが買われて出世した人物だというコトで、「いつか失言で失脚しなければいいが」とは常々言われていたコトらしい。
御歳60歳。
防衛大学校の15期卒と言うから、彼が出世した頃人事権を持っていた上司というのは、つまりは警察予備隊から今の自衛隊を作った人達であり、日本軍の再興を志した人達である。

元来、ジジイ達は右寄り、それも極端な、

これは自衛隊関係者ならよく知っているハナシ。
彼らに気に入られる(つまり功績を上げにくい組織で、能力に差の無い同僚(ライバル)から抜きん出る)為には、自らも更に過激な極右思想を披露するというのは、これは組織内での処世術の定石であり、これはかわぐちかいじ氏のマンガ「軍靴の響き」にも描かれたコトである。
それ故、組織内の空気というのも「極右」がデフォルトである。
こう書くとガタガタ騒ぐサヨが沸いてくるように思われるが、「国を守る」がそもそもの目的であるこの組織が、リベラル思想でやってられるか、というのは、それは当たり前のコトでもある。
そしてそれが「当たり前」だからこそ、あくまで「シビリアンコントロールでなければならないのである。

では、そういう部内の空気に勘違いして、「思わず」外に出してしまったものなのか、

という疑問が湧いてくるが、それはこの「航空幕僚長」というポストに就くだけのコト、それなりの教育はもちろん受けているだろうし(むしろ「教育する側」だし)、当人も自らのポストでコレを出す事によって巻き起こる波紋というのは、重々承知の上だろう。

では、何故、

という疑問なのだが、日本における自衛官の社会的地位というのは、殊のほかに低い、というのが根底にあるのではないだろうか。
制服を着て街を歩くと、「戦争負けんなよ」と声を掛けられる。
ヤンキーにケンカを売られる。
酔っ払いに「税金ドロボー」と絡まれる。

でもそんなのは、「そういうもんだ」で済ませられる『些細なコト』だ。
問題は、最近では「当たり前」になった国際貢献イラクに派遣された陸上自衛官の、帰国後のPTSD障害こそ外に出ているが、インド洋沖での給油活動がどれくらいヤバいか、まして地対空ミサイルを警戒しながら丸腰の輸送機で行なう空輸活動がどれくらい危険か、については、あんまり論じられては居ないというのが現状である。
ゲリラが一発ミサイル撃ったらアウト、な状況が、それを派遣しようとしている国会議員にも、サッパリ理解されていないのが現状なのである。

そういう部下を、不憫に思ってのことなのか。

なのだが、結果論ではあるけれども、今回の論文である特定の組織内での田母神氏の評価というのは、格段に上がったと思われる。
政府系団体への天下りが思うように出来ない情勢の昨今、あえて非政府系の、「そういう思想」の団体への天下りを狙っての事ならば、なかなか狡猾なやり口である。

そんなワケで、じき依願退官するであろう田母神氏の、「その後」について定期的なレポートが是非欲しい、そんな論文騒動であった。
「軍備に見えても災害救助」な現状にこそ、この論文の提起している問題があると思うのだが。