20万円です。

dubrock2009-10-05

先月実家に立ち寄った時のこと。
飼っていた犬の様子がおかしかった。
明らかに具合が悪そうなのである。

「明日にでも病院に連れて行ってみるから。」

そういう母親のコトバだったが、あれから1ヶ月。
果たして愛犬はどうなっただろうか。

15歳(たしか)の老犬のことでもあるし、「たかが犬」のことでもある。
たとえ最悪の事態となったとしても、まあ特段の連絡はあるまい。

「死んじゃった。」

次に訪れた時にそう告げられても、まあ想定の範囲内でなのある。

そんな、「最悪の結果」をある程度覚悟しながらの、1ヶ月ぶり訪問である。

と、ソコには、元気そうにシッポを振る彼女の姿が。
「おお、生きてたか。」

無事を確かめるように体を擦ってやると、腹回りの毛はキレイに剃られ、真ん中にはまだ新しい縫合の後が。
随分と大手術だったようである。

と、ソコに、母親が血相を変えて走り寄ってきた。

「何か、聞いてる?」

と、それはどうやら、犬のことではないらしい。

なんでもシルバーウイーク中に食欲の無くなった実父。
休み明けの検査で出た診断名が、

胃がん

だったのだとか。
それも結果が出たのがつい一昨日という、なんともタイムリーな訪問となってしまった様なのだ。

胃がん

実父と胃がんとの付き合いは長い。

あれはまだ独り身だった頃だから、もう10年以上も前のこと。
胃に「ポリープ」だかが見つかって、「良性だか悪性だか分かんないけど、とりあえず切りましょう」という担当医の薦めを頑に拒み続けたことがあった。

ハナシは大きくなり、ついに説得に失敗した最年長の従兄弟から指令が出て、説得に帰郷したことがあった。

結果は、・・・

もちろん上手くいくハズもあるまい。
従兄弟の手前交渉のテーブルには付いたものの、「切らない」というオヤジの意見を全否定するほどの材料も意思も、持ち合わせては居なかったのである。

結局切らないまま年月は過ぎ、いつしか検診でもそのことについては指摘されなくなった。

これを実家では「完治(自然治癒)」としているようだったが、私個人としてはその解釈には懐疑的だった。

あとで聞いたハナシだが、あの頃夜な夜な痛みを訴えるオヤジを見兼ねて、母親は民間療法のバカ高い漢方薬(サメの軟骨とかだったと思う)を取り寄せていたらしい。
(その法外な薬代に窮した母親から何度か仕送りの要請があったが、これといった援助は出来ず終いだった。)

そんなこんなで痛みから開放されたオヤジは晩酌を再開。
日増しに増えるその酒量を苦々しく思う母親の小言を帰る度に聞かされたが、

んならあの時殺しとけば良かったじゃん!?

という息子の進言には答えは無かった。
そういうもんでもないらしい。

とはいえ、味覚が明らかに鈍くなり、香味料香辛料を多用する食生活と、そういうコトに起因するとは思えない口臭。
そんな、「ビワの種」ごときで切らずに消えるポリープなんて、そうそうあるものとも思えなかったのである。

だから、「治った」というコトで済むのなら万々歳、再発しても「さもありなん」。
それが、父と「がん」の関係なのである。

今回父は居間からほとんど動かず、少し頬がコケて血色も良くなかったが、ついてその口から診断のことは出て来なかった。
大好きな晩酌もせずに胃部の不快感と戦うその姿からは、まだそのことを理解出来ない自分が居るように思えた。

まあ、ね。

少々具合が悪かろうと、
「違う、この痛みは『がん』じゃない」
と長年自分に言い聞かせてきたであろうオヤジが、宣告されて「はいそうですか」とすぐ前向きに治療と向き合えるハズもなく、まずは自分の中で整理がつくまで、今しばらく時間が掛かるだろう。

一週間の入院を伴った犬の治療費は、「20万円」だったそうだ。
オヤジもそれくらいで済めばいいのだが、なんだか「虫の知らせ」みたいで変な空気になってしまった、今回の訪問だった。

今回は、切ればいいのだけれど。