バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある

dubrock2010-09-20



人は、良いことは3人に、悪いことは10人に伝えるという。

受け取った3人(または10人)が、また3人(10人)に、といった具合に、「バイラル・ループ」とは、ある商品、サービス、情報などが、“人伝いに”“急速に”広まる現象のことをいう。

この仕組みをビジネスに応用して一番最初に“大成功”を成し遂げたのが、冷蔵庫で食品を保存する定番の「タッパーウエア」で、もう50年も前のことだという。

近所の奥さんから回ってくる、お店では売っていないけれども、とても便利な“あの”発明品
は、意図的にそういう売り方をされていたのである。

その手法は“バラク・オバマ”の大統領選で戦術として採用され、熱狂的な支持と多額の小口寄付金を集めるに至った。
その仕掛け人が、フェイスブックの設立メンバーである“クリス・ヒューズ”だったというのだ。

インターネットの世界には、その創設期である1990年代に、意図せずしてその“バイラル・ループ”の伝播に遭い、急成長したウエブサービスが多数ある。
その一例として挙げられている“ネットスケープ”は、“これまでにないサービスを提供した”という意味で、爆発的な広がりを持つ素質を備えていたと言える。

そしてその後、ある程度のバイラル効果を狙ったサービスというのが続々発表された。
“ホットメール”や“ユーチューブ”など、コンテンツの一部に“広める”という要素を含めて提供されたものは、ほとんどがその“バイラル効果”を当て込んだといっていいだろう。
オバマ大統領の選挙戦略とは、実はそんな研究と実証の集大成みたいなものなんじゃないだろうか。

本著はそんな“バイラル効果によって爆発的に成長して、ネットの世界の成功者たち”をいくつも例に挙げ、“バイラル・ループ”の持つ力と将来性について熱く語るものとなっている。
日本においても広く知られているWebサービスが多く出てくることも、その理解を助けることとなるだろう。

で、読んでいると、

オレも、何かWebサービスを始めようかな・・・

という衝動に駆られてくる。

思いつきで始められたコンテンツがバイラルによって急成長し、“2年後に200万ドルで売却された”なんて、宝くじよりも現実的なハナシではないかと思うのである。

しかし、この“Web世界でのバイラル長者”には、問題点もある。

バイラル効果によって爆発的なユーザー数の増加を成し遂げたWebサービスというものは、得てしてサイト(サーバー)のダウンを引き起こす。
今日のユーザーが明日は倍、あさってはさらにその倍、という風にサイトのアクセス数が増えたら、何時かの段階で必ず限界は来るのである。
マイクロソフトの西脇さんは講演で、「そんなコトを可能にするのがMSのソリューション」と言っていたが、ホントに出来るかどうかはその時になってみないと分からない。)

その、システム対応に掛る経費。

また、一昔前の“ネットバブル”の頃であれば、“圧倒的なアクセス数”さえ集められれば、広告料を払ってくれるアフォな広告主もたくさん居たが、今は成果が上がらなければ広告料すら払ってもらえない時代。

かといって、有料課金すれば一気にユーザーが逃げる。
(グリーの田中さん聞いてますか?w)

ここから、“サイトを急成長させて高値で売却する”というモデルしか、確立されていないのが現状なのでありました。
(これは本著でも最後のほうで触れられている。)

しかもその、“魅力的なコンテンツを保有する企業をM&Aで取得する”という手法は、アメリカでこそ活発であるが、日本においてはあまり実例に乏しく、・・・
そもそも、16億5000万ドル(日本円で100億円以上)で買収された「ユーチューブ」が、いまだにこれといった収益を上げられていないというのが、このモデルの致命的な部分(つまり“先進IT関連企業に投資したがるバブル”)と言うコトもでき、ある意味“売ったもん勝ち”とも言わざるを得ない。

そんな問題点を内包する“バイラル”ではあるが、この機会にそれがどんなものであるか、自分なりに整理しておくのも悪いことではない。

“バイラル”?知らねぇ

じゃなくて、

ああ、“バイラル”ね。

そういう理解をするのに、丁度良い本だと思うのだ。


献本

ちなみに今回の本、9月24日発売というものを、講談社クーリエ・ジャポン編集部さんより「プレスリリース用オンデマンド版」という形で頂いた。
なので実際の装丁がどうされるかは定かではないが、流行りの「字が大きく、行間の空いた本」ではなかった
(とても30分1時間で読み終えられる量ではない。)

ネットにおける“集客”について興味のある方には、読み応えのある内容となっているのではないだろうか。